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レーザー入門2024.02.18

vol. 0 フェムト秒パルスについて

ここでは、超短パルスがどういうものなのか紹介します。真空中を伝播する電磁波は下の図のように電場と磁場が直交して伝播していきます。

電磁波の伝播

光は電磁波のうち、特定の波長範囲のものを示す言葉であり、波長によってその名称はさらに細分化されます。わたしたちの目が感知できる、いわゆる可視光線は波長がだいたい380nmから780nmあたりの領域であり、光の中のごく一部に過ぎないことがわかります。

波長と光の名称
我々の研究室で扱っている光は、中赤外波長(~10$\mu$m)から紫外波長(~300nm)程度の領域です。光の波長$\lambda$と周波数fの間には、$c=f\lambda$という関係が成り立ちます。cは光速(3$\times 10^{8}$m/s)です。例えば赤色の光(波長633nm)では、その周波数は4.74$\times 10^{14}$Hzとなり、1秒間に約$10^{14}$回(100兆回)振動していることになります。もしくは、電場の1周期の振動が2$\times 10^{-15}$秒=2フェムト秒で起きていることになります。


ここで、時間の単位についても紹介しておきます。3桁ごとに接頭語が変わるのは他の単位と同様で、秒、ミリ秒、マイクロ秒とだんだん短くなります。我々が日常生活で出会う時間スケールといえば、通常のストップウォッチの精度で10ミリ秒、F1の計測で1ミリ秒とか、そのレベルです。しかし、分子や原子の世界ではタンパク質のフォールディングのような遅い運動もありますが、分子の回転や振動運動はナノ秒、ピコ秒、フェムト秒といった時間領域で起きています。電子遷移はさらに速く、アト秒という時間単位が必要となります。簡単にいうと、状態が持っているエネルギー準位間のエネルギー差が大きいほど、その変化を引き起こす現象はより短い時間で起きる、と考えることができます。


時間スケールの比較

一般にレーザーは連続波(CW)レーザーと呼ばれる、ずっと電場を出力し続けるタイプと、パルスレーザーと呼ばれる、時間的に局在したエンベロープを持ったパルスを出力するタイプに大別されます。電場振幅とその周波数成分の間には、フーリエ変換の関係

$$ E(\omega)= {\cal F}\{E(t)\} = \int_{-\infty}^{\infty} E(t) e^{-i\omega t} dt$$

が成り立ちます。連続波レーザーの電場は$E(t)\propto e^{i\omega_{0} t}$と表せるので、上の式から$E(\omega) \propto \delta (\omega - \omega_{0})$のように表されます。つまり、周波数領域では無限に線幅の狭い単色の電場成分を持つわけです。次に、時間領域で50フェムト秒程度の時間幅でGauss型のエンベロープを持つ、中心波長800nmの電場パルスを考えます。Gauss関数のフーリエ変換はGauss関数になるので、このパルスの周波数成分は周波数の広がりを持つことになります。実際、我々が観測できる物理量であるスペクトル$S(\omega)$ = $|E(\omega)|^{2}$を計算すると、上述のパルスの場合スペクトル幅はおよそ20nmとなります。このようにスペクトルに広がりがあるパルスを用いることで、我々はエネルギーの異なる複数のエネルギー準位を同時に励起することが可能となります。(量子力学的には重ね合わせ状態or波束と呼びます。)

時間幅とスペクトル幅の関係


我々の研究室では、数十フェムト秒程度の時間幅を持ったレーザーパルスを用いた実験をしています。このようなパルスを使うことで、我々は分子の振動や回転運動を高い時間分解能で調べることが可能です。さらには、コヒーレント制御という技術でレーザー光の特性を変化させることで、複数の量子状態間のポピュレーションや位相差など、積極的に分子の振動、回転の状態を制御することも可能となります。

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