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学生の投稿2024.04.01

ラマン分光法と応用

ラマン分光法

ラマン分光とは、ラマン散乱光を分光して物質の情報を得る手法である。物質に光を照射すると、散乱光が発生する。同時に物質は光と相互作用するため、物質固有の分子振動が励起される。そのため、入射光と同じ散乱光を持つ通常の散乱光に混じって、分子振動の分だけエネルギーが変化したラマン散乱光が発生する。この光を分光することで、物質の分子構造や結晶構造を評価することができる。ラマン散乱光は、入射光より小さい周波数を持つストークス光と、入射光より大きい周波数を持つアンチストークス光の2種類がある。分析では、強度が強いストークス光を主に用いる。ラマン散乱光の概略図とエネルギー準位図を図1に示す。

図1. ラマン散乱光の概略図とエネルギー準位図

 

ラマン分光のメリットは以下の点にある。

  • 非破壊、非接触で物質を分析できる
  • 0.1µmスケールの狭小点での評価が可能
  • 気体、液体、固体など、様々な状態の試料を測定できる


顕微ラマン分光を用いた2次元半導体の層数評価

ラマン分光と顕微光学系を併用することで、集光スポットにある分子の振動を評価することができる。その特性を生かし、遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)と呼ばれる層状物質の薄層サンプルの層数評価を行っている。TMDCのそれぞれの層は、弱い分子間力で結びついている。そのため、層に垂直な方向の振動であるA1gフォノンモードは、バルク構造をとるときはその分子間力によりフォノンが抑制されている。しかし、層数が小さくなるごとに抑制が小さくなるため、層間の分子間力が小さくなり、特定のフォノンモードの振動エネルギーがシフトする。そのシフト量から、作製したサンプルの層数を評価することができる。ラマンスペクトルでは低エネルギー(低波数)側へのピークシフトが見られる。TMDCの薄層サンプルは、薄くなるほど小さくなり、単層では数µmスケールとなる。ラマン分光を用いることで、そのような微細なサンプルの層数を評価することができる。図2にA1gフォノンモードとラマンスペクトルの様子を示す。5(a)(b)の黒矢印はフォノンの方向を示しており、(b)では単層になることでフォノンが強くなる。それにより、分子振動の周波数が大きくなるため、ラマンピークが低エネルギー(低波数)側にシフトする。

図2. A1gフォノンモードとラマンスペクトル

(a)数層のA1gフォノンモード

(b)単層の A1gフォノンモード

(c) A1gフォノンモードのラマンスペクトル。(赤:バルク、紫: 単層)


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この記事を書いた人
植木 穂香 (M2)
Honoka Ueki

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