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学生の投稿2024.06.10

種々の半導体

バンド構造

原子軌道が相互作用して分子軌道を形成する際、エネルギーの低い結合性軌道とエネルギーの高い反結合性軌道の2つのエネルギー準位が形成される。大量の原子が集まる結晶構造ではすべての原子が相互作用するため、結合性軌道と反結合性軌道の数が増大する。エネルギーの分裂の大きさには上限があり、状態数のみが膨大な数になるため、このとき結晶中の電子が取りうるエネルギー準位はほぼ連続的になる。この構造をバンド構造と呼ぶ。電子はより安定な低エネルギーの準位から占有されるため、電子で満たされた低エネルギーのバンドと、電子が入っていない高エネルギーのバンドが出現する。それぞれのバンドを価電子帯、伝導帯と呼ぶ。バンド構造の形成を図1に示す。

図1. バンド構造が形成される様子


価電子帯と伝導帯の間は、物質によって電子が存在できないエネルギー領域(禁制帯)を持つものがある。この禁制帯の幅をバンドギャップと呼ぶ。結晶に電圧印加や光照射などでエネルギーを与えると、それまで価電子帯にいた電子が励起され、伝導帯に移動する。バンドギャップを持たないものを導体(金属)、エネルギーを与えても電子が遷移できないほどの広いバンドギャップを持つものを絶縁体と呼ぶ。これらのバンド構造図を図2に示す。

また、絶縁体と導体の中間程度のバンドギャップを持つものを半導体と呼ぶ。半導体と絶縁体の違いに明確な定義はなく、非常に広いバンドギャップを持つワイドギャップ半導体(詳細は後述)なども存在する。

図2. それぞれのバンド構造


ワイドギャップ半導体

現在最も普及している半導体の原料はSi(シリコン)である。シリコンのバンドギャップは1.12eVであるが、この値よりもバンドギャップが大きい半導体はワイドギャップ半導体と呼ばれる。SiCやGaNなどがこれに属する。広いバンドギャップを持つ物質の特徴は、格子定数が小さく、原子間の結合力が大きいものである。原子間の結合が強いことで電子のエネルギー状態が非常に安定しているため、大きなバンドギャップを形成できる。この特性により、高温環境下でも電子が励起せず半導体としての特性を保つため、高温環境下で駆動できる半導体デバイスを作成することができる。また、絶縁破壊電界強度もSiに比べて格段に大きいという特徴を持つ。そのため大きい電圧を印加することが可能となり、高い飽和ドリフト速度(電圧印加時の電荷キャリアの最大速度)を持ち、高速駆動のデバイスを開発できる。


直接遷移と間接遷移

半導体中で電子が遷移する方法は直接遷移と間接遷移の2種類がある。


直接遷移とは、価電子帯の頂上と伝導帯の底の波数が一致する遷移である。直接遷移を持つ半導体では、励起した電子のエネルギーは光子として放出される。そのため、直接遷移型半導体は発光効率がよく、発光ダイオードや半導体レーザーに利用されている。


間接遷移とは、価電子帯の頂上と伝導帯の底の波数が一致しない遷移である。そのため、励起や緩和にはエネルギーだけではなく運動量のやり取りが必要となる。運動量のやり取りは格子振動(フォノン)つまり熱を介することが多く、発光効率は極めて低い。運動量空間(k空間)での直接遷移と間接遷移の概略図を図3に示す。

図3. 直接遷移と間接遷移


ムーアの法則の限界と二次元半導体

現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、高機能化に向けた微細化・集積化が進んでいる。中でも、半導体の表面に微細な電子回路を形成した集積回路では、回路上に搭載するトランジスタの数が増えるほど計算能力の向上が見込める。集積回路の微細化は、集積回路当たりのトランジスタの数が毎年2倍になるというムーアの法則に従って発展してきた。しかし、三次元半導体のSiを使用したトランジスタを今以上に小さくすることは限界を迎えつつある。その原因は、Siを微細化しすぎることで界面が不安定になり、物性が消失するためである。その問題の突破口となる新たな材料の候補として、二次元半導体が挙げられる。


二次元半導体は、原子がシート状に結合した二次元構造を持つため非常に薄く、デバイスの微細化が容易である。しかし、これは二次元方向に電子が閉じ込められるため、電子が自由に動くことができずドリフト速度が小さくなるという問題がある。その問題を解決する物質として、遷移金属ダイカルコゲナイド(Transition Metal Dichalcogenide, TMDC)に注目が集まっている。この物質は一層の遷移金属層をカルコゲン原子層がサンドイッチしたような構造を持つ。そのため、TMDCは三次元半導体よりもはるかに薄く、かつ電子は自由に動けるほどの厚みを持ち合わせた二次元半導体であると言える。この特徴を生かしたデバイス開発に向けて、世界中で研究が進められている。

この記事を書いた人
植木 穂香 (M2)
Honoka Ueki

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